National Search Fund株式会社の前田と申します。朝日税理士法人様より再度寄稿の機会をいただき、感謝申し上げます。これまで2回にわたり、サーチファンドという新しい事業承継の仕組みや具体的な事例についてご紹介をしてまいりました。第1回ではサーチファンドの概要と意義を、第2回では実際の承継事例と弊社の特徴をお伝えしました。そして今回はその続編として、この一年で見えてきた変化や新たな挑戦、そして承継のその先に広がる未来についてお話しさせていただきます。
※第1回(2024年3月25日、URL:https://www.taxacc.jp/magazine/pc/nsf-202403/)
第2回(2024年9月24日、URL: https://www.taxacc.jp/magazine/pc/202409-2/)
白馬の騎士ファンドの設立と新たな承継の始動
このたび、私たちは新たに2号ファンド「TOKYO白馬の騎士ファンド」を設立いたしました。これは、1号ファンドでの4件の事業承継実績をご評価いただき、東京都様と地域金融機関様にご出資いただき立ち上げたものです。首都圏の中小企業の事業承継課題に向き合い、後継者不在に悩む経営者の方々に、「大手資本の傘下ではなく、志のある次世代の経営人材に会社を託す」という選択肢をより広く提供することを目的としています。
そして早くも、このファンドでの1号案件が成立しました。創業者の想いを確りと受け継ぎながら、未来に向けたビジョンを掲げて事業を引き継ぐサーチャーの姿は、まさにサーチファンドの本質を体現しており、私たち自身も大きな手応えを感じております。承継は終わりではなく、新しい物語の始まりであり、私たちもサーチャーと共に成長に向けて邁進していきます。
サーチャーへの応募は250名へ ― 広がる「経営を志す人材」
弊社に応募いただいたサーチャー候補者は、累計で200名を超えました。年齢は30〜40代を中心に、金融機関、商社、コンサル、大手メーカー、さらにはスタートアップ経営者まで、多彩なバックグラウンドの人材が集まっています。
「大企業で安定したキャリアを歩んでいたが、もっと直接的に社会へ貢献したい」、「自らの責任で意思決定を行い、オーナー経営者として挑戦したい」「地元に戻り、地域を支える会社を引き継ぎたい」等、こうした声には、一人一人の強い想いと使命感が込められています。
私たちが最も重視するのは、学歴や経歴ではなく、経営者としての資質です。中小企業の経営者としてどんな逆境でも逃げずに立ち向かう強さ、新しい価値を生み出そうとするアントレプレナーシップ、そして、長年会社を応援し支えてきた方々を惹きつけ巻き込むチャーム。これら3つを備えた人材こそ、承継企業の未来を切り拓くと信じています。そして、こうした人材の応募が増えていることは、日本社会において「経営を志す」人々が着実に増えていることの証でもあります。
承継はゴールではなく「第二の創業」
サーチファンドによる事業承継の真価は、会社が存続することそのものに加え、その後に生まれる変化にあります。
金属リサイクル業を承継したサーチャーは、現場に飛び込み従業員と共に汗を流し、元オーナーと二人三脚で経営にあたりながら海外取引の強化を進めています。現在売上は数倍に成長し、現場全体に新しい活気が広がっています。
また、アパレル業界でECやDX、マーケティング戦略を役員として推進してきたサーチャーは、ハーレーダビッドソンのカスタムショップを承継し、自信の知見を活かして社内のDX化や新たなマーケティング戦略を推進し、新たな事業展開を着実に切り拓いています。
さらに、豆腐製造業を承継したサーチャーは、伝統の味や品質を守りながら地域ブランド戦略を展開し、着任から4ヶ月で新たなブランド・商品をリリースしました。既存チャネルに加えて、積極的にSNSを活用しながら、新たな顧客を獲得し始めています。
これらの事例は、いずれも承継を契機に企業が成長の新たな軌道に乗ったものであり、まさに「第二の創業」と呼ぶに相応しい挑戦です。
サーチャーの挑戦と成長
承継の道のりは決して平坦ではありません。後継経営者としてまず求められるのは、創業から受け継がれてきた想いや文化を尊重しつつ、従業員や取引先との信頼関係を築き、事業を安定的に維持することです。しかし、これは決して容易なことではありません。就任直後は、現場の声を受け止め、仲間として認められることから始まります。
さらに、中小企業の経営には重い責任が伴い、社員の退職や業績不振、資金繰りの困難等、様々な課題に直面します。こうした試練から逃げずに挑み続ける姿勢こそがサーチャーを鍛え、企業に新たな風を吹き込む原動力となります。私たちは、それらの挑戦と試練のすべてに寄り添い、人生をかけて伴走してまいります。
事業承継の本質と未来
事業承継は、単なる株式の移転ではなく、人と人との想いが未来へと受け継がれていく営みだと考えています。創業以来の理念や文化を尊重しながら、サーチャーと元オーナーとが一定期間肩を並べて改革に挑む。その過程で、従業員や取引先、さらには地域社会をも巻き込みながら、企業は新たな姿へと進化していきます。
私たちは、この営みをサーチファンドを通じて一つでも多く実現することを使命とし、その積み重ねを社会インフラとして発展させていくことを目指しています。
サーチファンドを通じて私たちが光を当てたいのは、会社を経営すること自体ではなく「承継のその先」です。企業を守るだけでなく新しい挑戦へ導くこと、経営者を生み出すだけでなく地域を牽引する良い会社・職場を育むこと。それこそが、私たちの描く事業承継の未来です。
今後も、一社でも多くの中小企業が想いをつなぎ、次世代へと成長していけるよう、全力で取り組んでまいります。本稿が、事業承継に関心を寄せる皆さまにとって、新たな視点や気づきをもたらす一助となれば幸いです。
私たちの取り組みにご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。皆様の温かい応援と、貴重なご意見・ご指導を心よりお待ちしております。
著者プロフィール
National Search Fund株式会社 代表取締役 前田 健太
2017年より双日株式会社にて与信審査や事業投資先モニタリング等のリスク管理業務を担当し、2019年にはフィリピンにて新設子会社の立ち上げ支援(ガバナンス体制整備)に携わる。2022年に当社を創業。佐賀県武雄市出身。一橋大学商学部経営学科卒。
URL: https://ns-fund.jp/