
インボイス制度がスタートして数年が経ち、日々の経理業務にも少しずつ慣れてきた頃でしょうか。
実は、制度開始当初から用意されていた「負担を減らすためのお得なルール(経過措置)」は、令和8年(2026年)の秋に大きな転換期を迎えます。
「今までと同じ計算で大丈夫だろう」と油断していると、思わぬ税負担の増加に驚くことになりかねません。今回は、令和8年度の税制改正で登場した売上に関する「3割特例」と、仕入に関する「7・5・3割控除」という2つの重要テーマについて、分かりやすくお話しします。
■ 売上に関する「3割特例」:
個人のピンチを救う!?新設の「3割特例」と法人の注意点
これまで、免税事業者から新たにインボイス発行事業者(課税事業者)になった方(一定の要件あり)を対象に、売上にかかった消費税の「2割」を納めればOKとする「2割特例」という制度がありました。 しかし、この非常にありがたい「2割特例」は、令和8年9月30日までの日の属する課税期間をもって終了してしまいます。
「2割特例が終わったら、一気に税金が増えてしまうのでは…?」 そんな不安の声にこたえる形で、令和8年度税制改正で新たに創設されたのが「3割特例」です。
「3割特例」とは、売上にかかった消費税から7割を差し引き、残りの「3割」を納付税額とする仕組みです。
2割から3割へと少し負担は増えますが、複雑な消費税の計算を避けつつ、税負担を抑えることができるクッションの役割を果たします。適用できる期間は、「令和9年分」と「令和10年分」の2年間です。申告書に付記するだけで利用できる手軽さも特徴です。
【「3割特例」は個人限定!法人は要注意】
ここで注意しなければならないポイントがあります。それは、この「3割特例」は「個人事業者」のみが対象となるという点です。これまでの「2割特例」は条件を満たせば法人でも使えましたが、今回の改正で法人は対象外となりました。
つまり、法人の場合、2割特例が終了した後は、原則的な計算(本則課税)か「簡易課税制度」へと切り替えて消費税を納める準備が必要となります。法人の皆様は、早めのシミュレーションが不可欠です。
【「簡易課税」を選んだ方がお得なケースと注意点】
個人事業者であっても、必ずしも3割特例がお得とは限りません。業種によっては「簡易課税制度」の方が税負担は少なくなるケースがあります。
たとえば、小売業なら実質2割、卸売業なら実質1割の負担で済むため、3割特例よりも税金が安くなります。
通常、簡易課税は事前の届出が必要ですが、2割・3割特例から簡易課税へ切り替える場合は特例があり、「その適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る申告期限まで」に届出を出せば間に合います。
ただし、大きな設備投資などを行い消費税の還付を受けたい年は要注意です。簡易課税や3割特例を使うと、還付が受けられません。また、簡易課税は2年間継続しなければなりません。状況に合わせて有利な方法を慎重に選ぶことが大切です。
■ 仕入に関する「7・5・3割控除」:
仕入れのルールも大きく変わります!「7・5・3割控除」のスケジュール
次は、自分が消費税を納める側ではなく、インボイス発行事業者以外の者から商品やサービスを「仕入れる(買う)側」のルールの話です。
これまで、インボイス発行事業者以外の者からの仕入れであっても、消費税相当額の「80%(8割)」を差し引いて計算してよいという経過措置がありました(8割控除)。
この制度も、永遠に続くわけではありません。今回の改正により、控除できる割合が以下のスケジュールで段階的に引き下げられていきます。
70%控除(7割控除): 令和8年10月1日〜令和10年9月30日まで
50%控除(5割控除): 令和10年10月1日〜令和12年9月30日まで
30%控除(3割控除): 令和12年10月1日〜令和13年9月30日まで
期間の区切りが「令和8年分」といった年単位ではなく、「令和8年10月1日から」である点に注意してください。10月1日をまたぐ取引から、計算に使う割合が変わってきます。
【控除限度額の見直し(大口取引を制限する1億円の壁)】
この買手側の特例(7・5・3割控除)を利用する際、大きなルール変更があります。
これまではインボイス発行事業者以外の者からの仕入れが年間10億円まで特例の対象でしたが、令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、「1つのインボイス発行事業者以外の者からの仕入れ合計額がその年又は事業年度1億円を超える場合、その超えた部分には特例(控除)を適用しない」ことになりました。
特定の者(1人のフリーランスなど)へ年間1億円を超える多額の外注費や仕入代金を支払っている場合は、消費税の負担がダイレクトに跳ね返ってくるため、注意が必要です。
■ おわりに
インボイス制度は「とりあえず今まで通りで」が通用しなくなる時期が近づいています。自社の事業規模や取引先の状況を見極め、どの制度を選択するのがベストなのか、早めにシミュレーションを始めていきましょう。
社員税理士 飯野 和美