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朝日だより

パワハラ防止措置について

2025年10月28日 朝日弁護士法人

1 はじめに

 令和4年4月から、いわゆる労働施策総合推進法(正式名称:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が改正され、中小企業においても、パワハラ防止措置を講じることが義務化されました。

パワハラは、従業員の離職を引き起こすだけでなく、企業の社会的信用にも重大な影響を及ぼすおそれがあります。今回は、会社が講じるべきパワハラ防止措置についてご説明したいと思います。

 

2 パワハラとは?

厚生労働省によれば、職場におけるパワハラとは、以下の3つの条件をすべて満たすものと定義されています。

① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

③ 労働者の就業環境が害されるものであること

典型例としては、暴力や侮辱による身体的・精神的な攻撃、無視などの人間関係からの切り離し、過大なノルマの押し付け、私生活への執拗な干渉などが該当します。

 

3 パワハラが発生した場合の会社の責任

⑴ 使用者責任

パワハラが一従業員の行為であったとしても、会社はその従業員を雇っている以上、使用者責任に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法第715条1項本文)。

会社が労働者の選任や監督に相当な注意を払っていれば、この責任は免責されますが(民法715条1項ただし書き)、過去の多くの裁判例においては、この免責は認められていません。

 

⑵ 不法行為責任

従業員のパワハラ行為が、会社の指示や黙認のもとに行われていた場合には、当該行為は会社の意思に基づいて行われたものとみなされます。

この場合には、会社自体がパワハラを行ったとして、会社が不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります(民法第709条)。

 

⑶ 安全配慮義務違反

 労働契約法第5条において、使用者は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものと定められています(安全配慮義務)。

 したがって、パワハラが発生した場合には、会社は、安全配慮義務を怠ったとして、債務不履行責任(民法第415条)を負うことになると考えられます。

 

 安全配慮義務の具体的な内容は、職場環境配慮義務であり、この職場環境配慮義務は、労働者にとって良好な職場環境の維持確保に配慮し、ハラスメントが発生した場合に誠実かつ適切な事後措置をとり、事実関係を迅速かつ正確に調査し、誠実かつ適切な対処をする義務などを指します。

 したがって、会社においては、労働施策総合推進法に従って、パワハラ防止措置を講じる必要があるといえます。

 

4 会社が講じるべきパワハラ防止措置

⑴ 方針の明確化と周知・啓発

 就業規則や社内ルールで、パワハラ禁止規定や加害者への懲戒方針を明記し、全従業員に周知します。

⑵  相談窓口の設置と体制整備

 従業員が安心して相談できる窓口を設け、相談窓口担当者に対応スキルを習得させておくことが必要です。定期的にパワハラ調査の社内アンケートを実施することも有効です。

⑶  迅速かつ適切な事後対応

 被害者・加害者双方からの聴取、必要に応じた配置転換、加害者への懲戒処分、再発防止策の実施(研修など)を行います。

⑷  不利益取扱いの禁止

パワハラに関する相談をしたことや、パワハラへの対応に協力したことを理由に、解雇や降格などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。

 

5 まとめ

パワハラに関する相談や告発を受けてお困りの方や、パワハラ防止の社内体制整備にご不安のある方は、ぜひ弁護士までご相談ください。


弁護士 桑田貴大

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