昨今、遺言書作成についての相談を受けることが多くなりました。
新聞やTVなどで特集を組むものもあれば、本屋さんでも遺言書に関するコーナーが設置されているのを目にすることも増えたなぁと感じます。
そこでは財産がある方だけでなく、あまりお持ちでない方でも遺言書を残すべき事例などがありそれを紹介しているものもあるようです。今回はそのお話をします。
専門家目線で言っても、財産の多少にかかわらず、人によってはちゃんと遺言書を残しておいた方がよいと思うケースは相当数あり、このままではトラブルに発展するかもしれないなと思うものも多いです。
例えば、次のケースに該当する方は気を付けたほうがよいでしょう。
①離婚歴があり前婚の間において子供がいる方
②相続人の中に連絡がつかない人や外国に住んでいる人がいる方
③相続人の中に意思判断能力(認知機能)に問題を抱えている人がいる方
それぞれ解説する前に、全体を通じて知っておいていただきたいことは、遺言書が無い場合の相続は、相続人全員での合意を証明する「遺産分割協議書」を正式に作成しない限り、遺産の分割・仕分けが実質的にできないということです。実質的とは、「A不動産は妻に、Bは長男に、預金は長女に分ける・・・」となったときの分割作業である登記手続等ができないということです。
では遺産分割協議書を作成しない場合の分割方法はどうなるかと言えば、遺産の全てが法定相続割合に応じた相続人全員の「共有」になるというのが法律上の考え方です。
(不動産は共有名義になるということ。但し、預金に限っては法定相続割合でのみ分割が可能)
これを相続における大前提(知識)として覚えておいてください。
この前提から上記をそれぞれ見ると、①は前婚の間の子供も相続人であるため、遺産分割協議をするにはその子供も加えないといけないこと(複雑な相続人関係。まとめるのが困難)。②は音信不通、どこに住んでいるかも知らない人や外国に行ったきり帰らない人、連絡方法が無い人がいるようなケース(疎遠な相続人関係)。③は、意思判断能力に問題があるとは、例えば認知症や事故による障害、生まれながらの障害をもつ人などが該当し、この人々が相続人となった場合、遺産分割協議ができず、また無理に行ったとしても法的には無効となってしまいます。(特別な相続人の存在。成年後見人選任手続が必要)
これら①~③は共通して、次の事を問うています。
「ちゃんと相続人間で遺産分割協議ができますか?」
不動産であれば法務局、預金等であれば銀行は遺産分割協議の証明として協議書の提出を求めてきます。遺産分割協議書は相続人全員からの実印と印鑑証明書を要求されるため、簡単に作れる書面ではありません。(①~③のケースではどれも難しいと言えます)
言い換えれば、遺産分割協議ができるのであれば、遺言書は必要ないかもしれません。
死後は相続人たちに任せればよいでしょう。しかしながら、自分たちのご先祖の時代と比べると、現代においては、残る相続人の状況、関係性が複雑なケースがとても多く、一定数の方にとっては、遺産分割協議はハードルが高いものになっています。
残る相続人が遺産分割協議すること、できることに不安をお感じになるのであれば、今から遺言書を作成すべきと思います。自分が遺言書の中で決めてしまえばいいだけなのですから。
こうしてみると、財産の多少はあまり関係なく、残る相続人の状況によっては一定数の方が遺言書作成すべき人と言えます。
財産よりも人(相続人関係)に不安がある方⇒遺言書を作成すべき人、と言えます。
遺産分割協議を通じて、相続人どうしが仲たがいする、疎遠になると言うケースを実務上たくさん見てきました。
「立つ鳥跡を濁さず」ではありませんが、終活の一環としての遺言書作成を、この機会にご検討されてはいかがでしょうか。
(文責:司法書士 山口亮二)