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朝日税理士法人のブログを掲載します。

◆ 日本の所得格差と資産税制度の影響に関する考察 ◆

2025年10月17日 BLOG

はじめに

日本は資本主義国家であるにもかかわらず、世界の資本主義国と比べて所得格差が比較的小さい国として知られています。この背景には、戦後の税制改革や社会制度が大きく影響しています。本税務ミニ話では、日本の所得格差の現状と、シャウプ勧告および相続税制度が果たした役割について整理し、現状の課題についても触れます。

 

日本の所得格差の現状

日本の所得格差は、OECD諸国の中でも比較的小さい水準にあります。代表的な指標であるジニ係数(税後)を見ると、2020年時点で日本は0.32と、OECD平均より低い水準です。これに対し、アメリカ合衆国は0.41と高く、格差が大きいことがわかります。格差の小さい国としては、スロバキア(0.22)、スロベニア(0.23)、ノルウェー(0.25)などが挙げられます。ジニ係数は0が完全平等、1が完全不平等を示す指標であり、数値が低いほど所得格差が小さいことを示します。

近年、日本では非正規雇用の増加や高齢化社会の進展などにより、所得格差の拡大が懸念されています。しかし、戦後から現在に至るまでの長期的な傾向では、制度的な要因によって比較的格差が抑えられてきたことが確認できます。

 

シャウプ勧告と累進課税の導入

戦後、日本の税制改革はアメリカのシャウプ勧告を基盤として行われました。シャウプ勧告(1949年)は、所得再分配機能を重視した累進課税制度の導入を提案し、高所得者への課税強化を推奨しました。この結果、1950年代には所得税の最高税率が非常に高く設定され(50~75%)、富裕層からの税収が戦後復興や社会資本の整備に活用されました。

累進課税制度は、高所得者からの税収を中間層や低所得層への再分配に活用する仕組みであり、日本の所得格差の縮小に大きく寄与しました。資本主義社会でありながら中間層が厚く、社会の安定性を確保できたのは、この政策が重要な役割を果たしたためです。

 

相続税制度の役割

日本の相続税制度も、所得格差縮小の一因とされています。日本の相続税は累進課税が厳しく設定されており、最高税率は55%に達します。この制度により、高額資産が一部の世代に集中することを抑制し、世代間での資産分配を比較的公平に保つ効果があります。また、課税開始額(基礎控除)が低めに設定されているため、多くの世帯が相続税の対象となり、資産の集中を緩和しています。

相続税制度は、資産の世代間再分配を通じて、中長期的に所得格差を抑える機能を果たしており、累進課税と並んで日本の格差抑制の骨格を形成していると言えます。

 

現状の課題と今後の展望

制度的要因により格差が抑えられてきた日本ですが、近年の社会構造の変化により課題も顕在化しています。特に以下の点が指摘されます。

  1. 非正規雇用の増加
    所得水準の低い非正規労働者が増え、世帯間の格差が拡大する可能性があります。
  2. 高齢化と資産格差
    高齢者の資産保有割合が高くなる一方で、若年層や中間層の資産形成が十分でない状況が続いています。
  3. グローバル資産運用の影響
    株式や不動産など運用資産を多く保有する富裕層と、現金資産中心の一般層との間で、格差拡大のリスクが高まっています。

今後も所得格差の抑制を継続するためには、累進課税や相続税制度の見直しに加え、社会保障制度や教育、雇用政策など多角的な対応が求められます。

 

まとめ

・日本の所得格差はOECD諸国と比較して小さい。

・シャウプ勧告に基づく累進課税と、厳格な相続税制度が、格差縮小の大きな要因である。

・高齢化や非正規雇用の増加により、将来的には格差拡大のリスクがある。

・政策的な再分配機能を維持・強化することが、今後の課題である。

 

私見

最近海外に行くことが多く、アメリカやヨーロッパの先進国、アジアの発展途上国のどこに行っても所得格差を強く感じています。どこの国も超が着くほどの富裕層と路上で過ごすホームレスがいます。そして先進国のホームレスによる犯罪や発展途上国において国会議員による財産の私有化に対する大きなデモが頻発しています。私はこの税務ミニ話により、制度的背景が日本の格差の小ささにどのように寄与してきたかを整理するとともに、課題が山積している今後の課税のあり方を再検討しなければいけない時期だと痛感させられました。

理事長 石井孝雄

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