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朝日税理士法人のブログを掲載します。

◆ 300万円を超えないとメリットが無くなる? ◆

2022年12月12日 BLOG

◆ 300万円を超えないとメリットが無くなる? ◆

 


Q:以前、300万円を超えないと雑所得になってしまう!という騒ぎがあったね

 


A:今年の8月にあったパブリックコメントだね。でも帳簿があれば大丈夫になったよ

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【真夏の騒然】

先日発表された天気概況によると、今月後半に寒波が北海道に到来し厳しい寒さが続くとのこと。私たちが住む関東はそこまでではないものの、手には手袋、首にはマフラー、コートの襟を立てて街を行きかう季節が到来します。

こうなると勝手なもので、あんなに嫌がっていた夏の暑さが恋しくなります。

蝉が鳴き、太陽がギラギラと照り付けるあの暑さに思いを馳せていると、ふとあることを思い出します。

それは、夏真っ盛りの8月1日に国税庁からなされたパブリックコメント公募です。

「年収300万円を超えない副業は原則として雑所得とする」このようなカンジのことが記載された所得税基本通達案について我々が身を置く税務業界は一時騒然となりました。

 


【そもそも・・】

騒然となった内容をご案内する前に、そもそも・・

「所得税基本通達」とは?

「パブリックコメント」とは?

「雑所得」とは?

これらについて説明をさせて頂きます。

 


「所得税基本通達」とは、税務署職員等が、所得税務判断などを行う際に、(上から定められた)守るべき税務署内のルールのようなモノです。

法律ではないので、税理士や納税者を縛るモノではありませんが、そうは言っても税を取り扱う当局内のルールであることから、法律と同じくらいの影響力があります。

書店に行けば通達集というカタチ(まるで法令集のようなカタチ)で販売されており、我々税理士も税務判断において無視できない(むしろ重きを置かざるを得ない)モノです。(つまりそれだけ重要なモノになります。)

 


「パブリックコメント」とは

前述のとおり、通達は大きな影響力があるため、これを発する前に、その案を示し広く意見を問うことを行います。これがパブリックコメントというモノです。

今回は令和4年8月1日から31日まで実施されました。

 


「雑所得」とは

所得税は、その所得の源泉ごとに計算方法が細かく分かれております。

① 銀行預金などの利息により生ずる「利子所得」

② 株式等の配当により生ずる「配当所得」

③ アパ―トなど収益物件の経営により生ずる「不動産所得」

④ 個人事業の経営などにより生ずる「事業所得」

⑤ 勤務して得るサラリーによって生ずる「給与所得」

⑥ 勤務先等を退職した際に得る「退職所得」

⑦ 山の木々の伐採などによって得る「山林所得」

⑧ 自身の有する財産を売却して生ずる「譲渡所得」

⑨ 保険金など一時的なお金等を得て生ずる「一時所得」

⑩ そして最後に上記のいずれにも該当しないモノ「雑所得」

このように雑所得とは上記の①~⑨のいずれにも該当しないモノという定義です。

実務上は、例えばサラリーマンである傍ら、ネット上で物販等をして得る所得や原稿

を投稿して得る所得など、いわゆる「お小遣い稼ぎ的な所得」などがこれに該当しま

すが、「雑」という名の示すとおり、税金の計算も雑駁で(後ほどご案内しますが)

事業所得などにあるような税務上のメリットや優遇はありません。

 


【それは、あんまりだ!】

今回、税務業界が一時騒然となったのは「300万円を超えない副業は一律、雑所得」と決めつけてしまうような通達案が示され「それはあんまりだ!」という意見が大半を占めたためです。

何故、雑所得だと⇒あんまりだ!になるのでしょうか。

それは、雑所得が税金の計算上あまりにもメリットがないためです。

例えば、ネット上での物販を本業としている場合は事業所得という所得区分として計算されます。

この事業所得には沢山のメリットがあります。

① 青色申告特別控除

青色申告をしていれば、65万円または55万円もしくは10万円をその所得金額から控除することができます。

 


② 事業専従者控除、青色事業専従者給与

その事業を家族など生計を一にする者が専従的に手伝っているのであれば、専従者控除として一定額、青色申告であれば、その家族等に支給した額のうち限度額までが所得から控除されたり必要経費になったりします。

 


③ 少額減価償却資産の特例

青色申告をしていれば、30万円未満の減価償却資産を一括して経費計上することができます。

 


④ 損益通算

もし、事業所得が赤字になった場合、その赤字を給与所得と通算することができます。

 


⑤ 繰越控除

もし、その年の事業所得が赤字になった場合、その赤字は、翌年以降3年間繰越すことができます。

65万円引くことができたり、奥様が専従して手伝ってくれると一定額が控除等できたり、赤字が出ても、給与所得や翌年の黒字と通算できたり・・・事業所得には本当に沢山のメリットがあります。

でも、同じネット上での物販であっても、副業のような取り扱いを受け、雑所得に該当してしまうと、このメリットを全く受けることが出来なくなります。

だから、事業所得になるのか、雑所得となってしまうのか・・これは税金の計算上とても重要な問題なのです。

 


【だから改めました】

「メリットが大きい事業所得に該当せず、メリットがほとんど無い雑所得として取り扱われてしまう基準が300万円でバッサリ決められてしまう」これは如何なものか!

同じネット販売事業でも300万円を1円でも超えればセーフ。でも300万円ぴったりだとNG・・こんなのおかしい!

このようにパブリックコメントでは、多くの意見(クレーム?)が寄せられました。

 


「思った以上のクレームだ・・・」

「このまま強行突破することはよろしくない」

課税当局の偉い人達がそのように思ったか否かはわかりませんが、通達をのように改めました。

『事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判断する。

なお、その所得にかかる取引を記録した帳簿書類の保存が無い場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得として認められる事実がある場合を除く。)には業務にかかる雑所得に該当する。』

なんだか、ごちゃごちゃ規定しておりますが、かみ砕いて説明すると

・帳簿を作成して保存しておけば、よっぽどのことが無い限り事業所得にしますよ。

・もし帳簿の保存がなくても、300万円超の収入があれば、よっぽどのことが無い限り事業所得にしますよ。

こんなカンジです。

ネット環境の発達で、様々な副業ができる時代になりました。

そこで、副業を行う皆さん。もしくはこれから副業をお考えの皆さん!

面倒かもしれませんが、行う事業について、しっかり帳簿を作成して、それを保存して下さいね。

それによって雑所得とはならず、多くのメリットがある事業所得として申告ができますよ。(青色申告の申請もお忘れなく。)

 


(文責:社員税理士  小竹 勝)

 

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