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朝日税理士法人のブログを掲載します。

◆ 税制大綱発表! ◆

2021年12月13日 BLOG

◆税制大綱発表!◆

Q: 税制大綱が発表されたね

A: 改正された項目がある一方、見送りになった項目があるみたいだよ

 

【税制大綱発表】

先週金曜日(令和3年12月10日)に与党税制大綱が決定しました。

今回の税務ミニ話では、この大綱の主な事項を速報としてご案内致します。

 

【賃上げ税制】

(1)賃上げ税制とは

賃上げ税制とは法人が従業員に対し賃上げや教育訓練投資を行った場合、その賃上げ高や投資額に一定の割合(控除率)を乗じた金額を法人税額から控除する税制です。

(2)過去最大の控除率

今回の改正でその控除率は、大企業においては、これまで最大20%であったものを最大30%、中小企業においては最大25%であったものを40%にそれぞれ過去最大の控除率にしました。

(3)効果は期待できる?できない?

「成長と分配の好循環」掲げた現政権の目玉改正と言われておりますが、そもそもこの税制は、法人が納税する法人税額から控除される制度であります。よって法人全体の65%が赤字である状況の中、一部の専門家からは

「赤字故、法人税を納税していない企業にとっては賃上げしても税の恩恵は無く、その効果は限定的である」

との意見もあり、政権が掲げる「分配」にどれだけ繋がるか心配な部分もあります。

 

【住宅ローン控除】

(1)住宅ローン控除とは

住宅ローン控除とは、一定の条件を満たした住宅ローンについて、その年末残債の1%相当額について所得税や住民税から控除する制度です。

(2)会計検査院から指摘

住宅ローンは今般の低金利時代に加え、ネット銀行などの参入により、過当競争となり住宅ローンの金利は0.5%を切るような状態となっておりました。

一方で、ローン控除の率は1%となっており、利用者が負担する金利(例:0.5%)より高く、これについて「行き過ぎた控除」として会計検査院より指摘を受けておりました。

(3)今回の改正

「行き過ぎた控除」の指摘を受けるカタチで、これまで1%であった控除率を0.7%に引き下げました。

その一方で、控除期間は従来の10年間を3年延長し13年間にする、更には省エネ機能を持つ住宅については、対象ローン残高を拡大するなどの措置が講じられることになりました。

 

【金融所得課税】

(1)総裁選挙時に株価が下がってしまった!?

給与所得や事業所得など通常の所得にかかる所得税率は、所得が大きければ大きいほど高い税率が課される超過累進税率になっております。

この超過累進税率は、所得水準に基づく応能負担がなされ、所得が高いほど税負担が求められる制度です。

一方、株式売却などの金融商品の運用益にかかる所得税住民税課税は一律20%であり、高所得者に適用される超過累進税率よりも低い税率になります。

この金融商品の運用者は高給取りなど高所得者が圧倒的に多いにも拘わらず、その税率が低いことから「金持ち優遇」との指摘がありました。

そこで、先の総裁選において当時の候補者であった現首相が「この税率を見直すことを視野に入れる」旨を発言した直後に市況が反応し株価が下落したのは記憶に新しいところであります。

その後、現首相はこの件についてほぼ封印状態になってしまいました。

(2)今回は見送り

コロナ対策の財源の多くを国債に頼っている状況の中、我が国の財政は厳しい状況になっております。

よってなるべく多くの税収が必要であり、金融所得課税における税率のアップはその財源確保の有力候補でありました。

しかし、今回の総裁選挙~総選挙の状況でこれが封印され、更に来年の夏には参議院選挙もあり、政治的にはこれに強く触れることがし難い状況になっております。

よって、今回は改正の対象になりませんでした。

(3)何とか布石を・・

それであっても、財政の健全化を進めるための財源としての期待に加え、税の公平性を保つ観点から、これについては今後も検討し、機会を見て税率アップをしたいという意向があります。

そこで、今回の大綱には「一般投資家が投資し易い環境を損なわないよう十分に配慮しつつ、総合的に検討する」という内容を記載し、その布石を残す姿勢をにじませました。

 

【噂の改正は実施されず】

(1)駆け込み贈与が多数あったが・・

「贈与をするなら今年まで」といった内容が多くの税理士法人等のHPに掲載がされていました。

この内容を見て、駆け込みで贈与を行った方も多くいらっしゃったのではないかと思います。

何故、そんなことが起きたのか・・それは、昨年の税制大綱に下記のような記載があったからです。

(2)その記載は「相続税と贈与税一体課税」

贈与税には基礎控除という制度があります。その額は110万円です。

つまり年間110万円までであれば、贈与税は課されません。

この仕組みを使って、例えば父から子へ毎年贈与を繰り返せば、税金を負担することなく、財産を次世代に移すことができます。

そうなると、本来相続税を課すべき父の財産を減らすことができ、相続税逃れが出来てしまいます。

そのようなことにならないように、その歯止めとして日本の税制では、相続開始前3年以内の贈与については、相続財産に取り込み相続税を課すことになっています。

これを諸外国と比べると、イギリスやドイツでは7年~10年で、日本の3年間はあまりにも短いものとなっております。

そこで、昨年の税制大綱には相続税と贈与税の一体課税ということで、この期間を欧米諸国と同様の期間する必要があることが強く記載されていました。

(3)今回は見送り

「先の大綱にあれだけ強く記載があったので、今回は必ず改正される」という噂が税務業界に広がり、故に上記(1)のような駆け込み贈与が生じました。

しかしながら、蓋を開けてみると、その改正はありませんでした。

これについては、このコロナ禍の状況、そして来年夏の参議院選挙を鑑みた場合「今回は改正を見送った方がよい」という意図がもしかするとあったのかもしれません。

 

【税制は政策と思惑の塊?】

問題:日本の法律の中で、毎年改正があるのは何でしょうか?

答え:税法

民法をはじめとする法律の多くは、改正はそれほど頻繁にはありません。

しかし、税法だけは別で、毎年改正するのがあたりまえになっております。

それは何故か?税制は時の政権の政策と思惑の影響を大きく受けるためです。

今回の改正、そして改正が見送られた各項目も、その色が濃くでていると思います。

ただ、税制は私達の生活の大きく関係をします。だからその動向はしっかり見ていく必要があります。今後の税務ミニ話にでもそれを追っていきますのでよろしくお願いします。

 

 

 

(文責:代表社員税理士  小竹 勝)

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