Q:景気対策として消費税が課されなくなるのは助かるね
A:本当にそうなのかな?困る人もいるようだよ
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【食料品に消費税を課さないことが実現する?】
備蓄米を投入しても一向に下がらないコメを筆頭に、円安や原材料高の影響で食料品は日々値上がり家計を直撃、国民の不満は高まるばかり。
この状況を受け、野党を中心に「食料品に消費税を課さないようにすべきだ」と主張。
これに対し政府与党は「消費税は社会保障の財源だから下げるべきではない」との見解。
ただ夏に参院選を控えることから、与党の一部では「課さないようにすべき」との考えがあり、与党も一枚岩では無い状況。
このような報道が日々なされています。
政府は否定的であるものの、少数与党である故、食料品にかかる消費税減税は現実のモノになるかもしれません。
【大歓迎の裏側で】
「食料品に消費税が課されなくなるのは大歓迎!」多くの皆さんはそのように思うでしょう。
しかし、その一方で、この状況を心配している方がいます。
今回は、その方々を紹介します。
【食料品非課税になると苦しくなる】
食料品小売業を営むAさんは、店舗を賃借し食料品販売を営んでいます。
「食料品にかかる消費税が非課税になると、私らみたいな零細商店は経営に行き詰まっちゃうよ」Aさんはとても心配しています。
その理由を聞くと
「食料品が非課税になると店舗家賃や水道光熱費、新聞チラシ広告などにかかる消費税を全て丸抱えしなければならなくなる」
「そうなると資金繰りが逼迫して大変なことになる」とのこと。
【食品小売り業者の心配】
事業者が申告する消費税は、売上げた際に客から預かった消費税から、商品仕入れや諸経費になどについて支払った消費税を差引きその額を納税します。
この差引く消費税のことを「仕入税額控除」といいます。
もし食料品が非課税という扱いになると、食品小売業を営むAさんに次のようなことが生じます。
(1) 非課税になるので、食料品を仕入れこれを販売しても、消費税は関係ありません。(仕入ても消費税は支払らわず、これを販売しても客から消費税を預かる必要はありません。)
(2) しかし、店舗家賃や水道光熱費、広告代などにかかる経費については、食料品が非課税になろうともこれまでどおり消費税がかかりますが仕入税額控除ができません。
何故か?それは、食料品が非課税となることで、Aさんは申告の対象から外れます。申告が不要になるので仕入税額控除という考え方がなくなります。だから店舗家賃等にかかる消費税を引くことができない・・ということになります。
店舗等にかかる消費税について仕入税額控除が出来なくなるということは、Aさん自身の負担になります。それは資金繰りに直結します。
だったら、売値を値上げしたいところだが・・・非課税になるタイミングで値上げなんてしたら、客になんて言われるかわからない=だから値上げしにくい。Aさんは心配でしかたありません。
【非課税と税率ゼロの違い】
そんなAさんに声をかける人がいました。それは同業のBさんでした。同業といってもBさんは小売りを行わず飲食店へ食品を卸すことを本業としています。
「Aさん、心配しないで報道をよく聞いてごらん」
「食料品は非課税ではなく『税率0%』だと言っているよ」
そう言われニュースをよく見てみると確かに「食料品の消費税率ゼロ」このように報道されています。
「『税率ゼロ』と『非課税』って同じことじゃないの」
疑問に思うAさんに対しBさんはこのように答えました。
「『非課税』は、Aさんのいうとおり消費税が課されないということ、一方『税率ゼロ』とは、消費税は課されるが0%だから税額が0円になる」
「つまり、結果として消費税は課されないが、消費税の申告計算は必要になる」
「だから、家賃等にかかる消費税は仕入税額控除ができる」
その話を聞いて「それなら引くことが出来るから資金繰りの心配はなくなる」Aさんはホッとしました。
【税率ゼロでも心配が・・】
「『税率ゼロ』でAさんは安心したかもしれないけど、うちの得意先は大変だよ」
先程までAさんを気遣っていたBさんが曇った顔をして心配を口にしました。
一体何が心配なのか?Aさんが尋ねるとBさんの心配は次のような内容でした。
同じ食料品を食す場合でも、外食の場合、消費税率は10%、一方食材などして購入した場合は8%である。
その差は2%であるから外食してもその割高感はそれほど強く感じない。
しかし、食料品が0%となると、外食に対する割高感はかなり強く感じる。
そうなると、飲食店などの外食産業から消費者が遠のくのではないか。
その結果、飲食店相手に商売するBさんに大きな影響が生ずるのではないか・・・そのようなことでした。
その話を聞いたAさんは
「食料品にかかる消費税を0にすることが本当に良いのか・・・」同じ食料品を取り扱う同業者として複雑な気持ちになりました。
【しっかりした議論が必要】
「食料品に対する消費税をゼロにすべきだ」
「いや!社会保障の大事な財源だからそんなに簡単に引き下げるべきではない」
など、与野党それぞれで主張を繰り返していますが、夏の参院選挙があるが故、各党のアピール合戦に聞こえてなりません。
消費税は国民や事業者に深くかかわる制度であるため、アピール合戦ではなく、しっかりとした議論を重ね、責任ある政治判断をして欲しいと考えがやみません。
社員税理士 小竹 勝