ある土地に建物を建てる場合に適用される法令といえば、まず都市計画法と建築基準法です。しかし、都市計画法と建築基準法以外にも、地方公共団体独自の条例が適用されることがあります。
地方公共団体の条例が適用された事例として、次のような裁判がありました。
◎事件の概要
Xは、不動産業者の媒介によって377.41㎡の土地を6億2,810万円で購入し、平成2年に引き渡しを受けました。
不動産業者は、その契約に先だって、その土地の容積率は150%であると重要事項の説明を行いました。
ところが、東京都建築安全条例10条の3については説明しませんでした。これは道路に接する長さによって建物の床面積が制限されることが規定された条文で、マンション等の特殊建築物を建築した場合、容積率が133%に制限されることが後日わかりました。
そこで、Xはこの媒介をした不動産業者に対して7,000万円の損害賠償を請求しました。しかし、業者はXが建築の目的物を伝えていなかったのでこの説明をしなかったとして、裁判になりました。判決は以下の通りとなりました。(東京地裁判決 平成8年8月30日)
◎判決
業者に説明義務はあるが、損害は認められないとしました。
◎解説
都建築安全条例10条の3によりマンション等の特殊建築物の接道義務が定められ、床面積が500㎡未満は4m、500㎡~1,000㎡は6m以上の幅で道路に接しなければなりません。
本件は、これによって容積率が133%に制限されることとなりました。
裁判所は、「マンション建設予定を媒介の業者に伝えていなかったとしても、本件土地の立地条件や床面積等に照らせば、マンション等の建設は十分に予測可能であった」として、「都安全条例10条の3の説明義務がある」としました。
しかし、引き渡しの当時は具体的な計画がなく、容積率についてはさほどの関心がなかったことや、当該条例の条文のただし書きの適用の可能性もあることから、この説明義務に違反したことによってXが損害を被ったことは認められないとして、Xの請求を退けました。
平成2年頃はバブル期でした。当時は、とにかく土地さえあればどんな土地でも売れ、また買い手がありました。土地に潜在する瑕疵(欠陥)についても、すべて値上がりが帳消しにしてくれた時代でした。当時は、「現状有姿」の一言で販売することが普通にあり、それゆえ不動産業者にも周辺調査と関連法規の調査に甘い点がありました。この事例は、不動産の行政法規がいかに重大な結果を与えるのかという教訓でもあります。
不動産鑑定の見地から考えると都市計画法・建築基準法は、建築についての最低限度を定めた法律です。したがって、地方公共団体はこれらの法律よりも厳しい条件の条例を定めることができます。
不動産鑑定においては、合理的かつ合法的な最高最善の使用である最有効使用を前提として、価格を求めます。このような条例の規定を見逃したらアウトです。
この他にも気をつけなければならないものを挙げますと、都市計画法については風致地区や地区計画が適用されていると用途地域の区分によって指定されている建ぺい率・容積率よりもこれらが厳しく制限されます。
また自然公園法が適用される土地でも、建ぺい率・容積率が通常よりも小さい数値となります。土地購入の際には国の法律だけではなく地方自治体の条例にも十分ご注意ください。
(文責・不動産鑑定士 嶋内雅人)