3月15日は所得税の確定申告期限ですが、同時に贈与税の確定申告期限でもあります。毎年計画的に贈与を行い、下の世代への財産移転を着々とすすめている方の中には、もしかしたら前回の朝日だよりを読んでドキッとされた方がいらっしゃるのではないでしょうか。
前回のテーマ『遺言書の必要性』の中で例に挙がった【名義預金】は、やってしまいがちな間違った相続対策です。今回はそちらに焦点をあててお話いたしましょう。
名義預金とは?
祖父が、孫が生まれたときからひっそりと積み立ててきた孫名義の口座がありました。そのうちに祖父が亡くなり家族が遺産の整理をしていると、タンスの中から誰も知らなかった孫名義の通帳が出てきました。これが『名義預金』です。
祖父は贈与のつもりで積み立ててきた預金ですが、そもそも『贈与』とはあげる側(祖父)ともらう側(孫)の合意がなければ成立しませんので、孫がお金をもらっているという認識がない限り、贈与は成立していないことになります。その結果、孫の名義を借りているだけの“祖父の財産”として相続税が課税されることになります。
一般的な判断基準
その財産が誰のものか、という判断は、個別の事案ごとに、総合的に勘案するとされていますが、主に次の5要件がキーポイントになります。(東京地裁平成20年10月17日判決より)
ⅰ)原資の出捐者
ⅱ)管理・運用の状況
ⅲ)財産から生ずる利益の帰属者
ⅳ)被相続人と財産名義人や管理運用者との関係
ⅴ)名義人が名義を有することとなった経緯
上記の例の預金については、これらの基準により贈与が成立しているかどうか(=名義預金ではない、と言えるかどうか)判断していくことになりますが、孫がその預金の存在を知らなかったのですから、その預金の管理・運用を行っているわけもありませんし、財産から生ずる利益(利息等)を享受していたとも考えられませんので、その他の基準に照らしても、これは祖父の財産であると判断せざるをえません。
名義預金と認定されてしまった事例
実際にあった事例で、父親が贈与税の非課税枠(110万円)以内での贈与として毎年子ども名義で積み立てた定期預金について、名義預金であると判断されたものがあります(名古屋地裁平成2年3月30日判決より)。
このケースでは、父親が生前中に自分の口座から「贈与」として資金を出して形成した子ども名義の定期預金について、①定期の書き換えや一部解約の手続きなどを全て父親が行っていたこと、②通帳や印鑑を全て父親が管理していたこと、③届出住所が父親の自宅であったこと、④子どもがその定期預金を使う際に父親に許可を求めるような形跡があったことその他の理由から、子ども名義の定期預金は実態が父親の財産であるとされ、相続財産に加算されました。たとえ、子どもが名義預金の存在を知っていたとしても、金額や日付を知らず、その預金を自由にできないならば、贈与があったと立証することは難しいといえます。
贈与を水の泡にしないためには・・・
贈与を行う方の中には、名義人である子どもや孫が資金を浪費してしまうことを危惧して本人に内密に積み立てる、ないしは通帳・印鑑を渡さない方がいらっしゃるかもしれません。しかし前述の通り、相続が発生した際にはそのような預金は相続財産とみなされることになります。
財産を正しく下の世代へ移転するためには、お互いに贈与契約書を交わしたり、管理・運用を受贈者へ任せるなど、形式と実態が伴った手続きをとることが重要です。贈与手続きについて、不安やお困りのことがあれば、朝日税理士法人へご相談ください。
(文責:菊永 奈津姫)