地中に埋蔵された状態で発見される文化財のことを、埋蔵文化財といいます。もしも所有している土地から文化財が出てきたら、「お宝発見!」となるでしょうか。しかし、それほど単純なものではありません。こんな判決がありました。
◎事件の概要
所有する土地が学校用地として1976年に買収され、公社から代替地として提供された土地がありました。
しかし、この土地は埋蔵文化財の包蔵地であり、文化庁の許可がなければ建築確認がおりないことが分かりました。そこで、代替地を提供された者は、公社に対して損害賠償を請求しました。
(東京地判昭57.1.21)
◎判決
埋蔵文化財の存在は瑕疵にあたり、調査費用相当の支払が命じられました。
◎解説
埋蔵文化財は、1950年に制定された文化財保護法に規定されています。土地の所有者等は、その自治体の教育委員会事務局の窓口等で、周知の埋蔵文化財包蔵地に含まれているかどうかを確認します。周知の埋蔵文化財包蔵地とは、埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地をいいます。
包蔵地に含まれている場合には、試掘をしなければなりません。また、試掘したところ以外から遺跡等が発見された場合には、建築予定の工事があれば中止しなければなりません。
試掘費用や工事の中止による使用制限といった負担は、その土地を開発する者が負うことになります。
この事件の土地については、代替地を提供した公社は「文化庁の全国遺跡地図が出版されたのは昭和51年5月で、その土地の売買契約を結んだ当時は周知の埋蔵文化財包蔵地になっていなかったため、調査発掘費用を負担すべき法的根拠はない」と主張しました。
しかし、裁判所は「本件土地が文化財埋蔵地として周知であったか否かに関わりなく、本件土地には隠れたる瑕疵
がある」と判示しました。
なお、「隠れたる瑕疵」とは、特定物(この場合は土地)について売買契約等を締結した時点で買主が知らなかった瑕疵であり、かつ、買主が通常要求されるような注意力を働かせたにもかかわらず発見できなかった瑕疵のことをいいます。
◎不動産鑑定の見地から
さて、試掘は1立方メートル(縦・横・深さ各1m)程度を小型のパワーショベルを使用して行い、文化財の有無は自治体の担当者が判定します。
その費用は20~30万円で、所有者が負担します。ただし、自治体によって費用の水準は異なります。
例えば価格水準が20万円/㎡で、100㎡の土地を想定すると、その価格は2,000万円となり、その土地の時価を鑑定する際の減価率は1~2%となります。
ただし、これは試掘の場合だけです。文化財があることがわかると、開発のための工事は中断され、本調査を行うこととなります。この費用も所有者の負担です。
例えば小田原北条氏の城下町であった神奈川県小田原市では、ある企業が建物を建てる際に試掘したところ、文化財が発見されました。
その結果、着工が5年程度先延ばしになったそうです。この場合は、本調査の費用負担分と、その5年間に獲得できなかった収益の現在価値だけ、その土地価格について減価が生じたことになります。
この小田原市のケースでは、それほど高層の建物を建てられる土地ではなかったと記憶しています。しかし、高層の建物が建てられる土地であれば失われた収益は高額になり、減価が大きくなることで、不動産の価値を大きく引き下げます。
「隠れた瑕疵」は発見できないとしても、不動産を購入(新築)する際には、買主は(通常要求されるような)相当の注意力を働かせながら検討することが肝心です。
(文責:不動産鑑定士 嶋内雅人)