Q:これまでは領収書がなかなか捨てられなかった。
A:今回の改正で、スキャン後、即破棄してもOKだよ。
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【たった4000社しか使っていない】
全国の法人数はおおよそ360万社あります。
こんなに沢山の数がありながら、たった4000社しか使っていない制度があります。
それは何でしょう?
それは、経理処理において使用する(経理処理の元となる)各種領収書や請求書などについてスキャナーを用いて保存してもイイよ・・という制度(電子保存制度)です。
ペーパレスが叫ばれるこの時代なのに、たった4000社しか利用していない(正確に言えば税務署側のOKを得ていない)のは何故?・・・とても疑問に思うところです。
【電子保存の歴史】
平成10年に電子帳簿保存法が施行されました。これにより、これまで紙ベースでしか保存が認められなかった会社の決算書について、電子データだけで保存することが認められるようになりました。
その後、平成17年には、会計処理のもととなる領収書や請求書なども紙ベースではなくスキャンによる電子保存が認められ、平成28年には専用のスキャンの機械ではなく、スマホの写真で保存することも認められました。
このように、課税当局は次々と制度を作り税制におけるペーパレスを促進してきました。
【それなのに何故?】
ペーパレスに対し、次々と制度をつくったにも拘わらず、何故スキャナー保存は4000件しかOKを得ていないのでしょうか。
それにはこんな理由があります。
① ステップ1
この制度を使うためには、事前に税務署から承認を得る必要があります。
この承認を得るためには、電磁的保存をすることについて、こまごました事項を沢山記載した申請書を税務署に提出し、その中身を税務署側で審査してもらい、その後に問題がなければ承認を得る・・こんなに長い道のりがあります。
会社側が「ヨシ!わが社も領収書や請求書をPDF化して、ペーパレスを図ろう」と思ってから、最終的に税務署の承認を得るまでに半年から1年ほどかかっていました。
よって「こんなに時間がかかるなら、面倒だからイイ」ということで、多くの企業が入口段階で躊躇していました。
② ステップ2
何とか、税務署側の承認を得ても、実際の実務において多くの制約がありました。
まず、領収書や請求書について、スキャナーを取るに際し、その原票に自筆による署名が義務付けられていました。
皆さん想像してみてください・・会社が受け取る領収書や請求書は膨大な数があります。
これを紙ベースで保存したくないので、電子化したいのに、その現物の全てについて、署名が必要などと言われたら・・「逆に面倒だ」ということで、やる気がなくなってしまいますね・・そういうことで、この制度利用を敬遠する例が多くありました。
③ ステップ3
面倒だけど頑張って自筆にて署名した後にも更なる試練が待ち受けていました。
それはタイムスタンプという制度です。
領収書を電子データとして保存した際に、そのデータを改ざんされないように、コンピュータの中でタイムスタンプというものを付すことを要件としていました。
「スタンプするのは面倒なので、時間があるときにイッキに付せばよい」と考える会社もありましたが、それはNGでした。
その理由は、タイムスタンプは電子データにしてから3日以内に付さなければならないという制約があるためです。
タイムスタンプを付すのだって一苦労なのに、それを3日以内に行えなんて・・ということで、これも制度利用をためらう理由でありました。
④ ステップ4
「現物に自筆にて署名して3日以内にタイムスタンプをしたのだから、要件は満たした。よし、用が済んだ領収書の現物は、早速破棄しよう。」と皆さんは当然に思いますよね
でも、これもNGです。
「何故、破棄してはいけないの・・これじゃペーパレスにならない」
その理由は「定期検査」という制度にありました。
電磁的保存をしている会社は、定期的に検査をすることを求められました。
その検査とは、2名1組になって、電子保存された領収書等と、現物が一致しているかなどを確認し、電子データが改ざんされていないかを調べるというモノです。
会社の実務が忙しい中、2名以上の社員の時間を割き検査することも大変ですが、その検査をするまでの期間、領収書などの資料を捨てずにとっておく必要があるため「これでは、ペーパレスにならず、逆に手間ばかりかかる」ということで、ほとんどの会社がこの制度に興味を持たなくなりました。
⑤ ステップ5
電子データの検索機能について、細かな要件があります。
(ただ、この要件は、大半の会計システムでは対応が可能なので、それほどハードルが高い要件ではありません。)
その結果、スキャン保存に関してはたった4000社しか承認されていないという状況を生んでいるのが現状です。
【これではイカン】
ペーパレス化を進めなければイケナイのに、たった4000社では話にならない・・
ということで、この度、この制度に大きな見直しが入ることになりました。
① ステップ1
まず、税務署の事前承認については、不要となります。
これにより、一定の機能を備えている「スキャナ」と一定の機能を備えている「会計ソフト」を有し一定の要件をクリアしていると会社が自ら判断すれば、いつからでも電子保存等の制度が利用できるようになりました。
② ステップ2
領収書にいちいち自筆署名を義務付ける要件も廃止となります。
これからは、署名せず、そのまま領収書等をスキャンすることが出来ます。
③ ステップ3
タイムスタンプは、データの改ざん防止のための措置でした。
そこで、一旦保存した領収書等のデータをその後、訂正や削除した場合にはその履歴が残るという改ざん防止機能が搭載されているシステムを利用している場合は、タイムスタンプは不要という制度に変わります。
④ ステップ4
更に、定期検査においてスキャナーに保存したモノと現物を突合することを義務付ける制度も廃止となりますので、スキャナー後は現物を直ぐに破棄することができるようになります。
⑤ ステップ5
電子データの検索機能について、緩和されました。
【裏がある・・・?】
「あれほど細かな制約を課していたのに、そのほとんどが廃止になるなんて、税務署は随分と融通を効かせてくれるなぁ」と思いの皆さんに留意して欲しいことがあります。
その1つが罰則です。
これまでの制約は、電子データの改ざんを抑制するモノでした。でも、今回は、その制約がなくなったので、納税者側において、ある意味改ざんが容易にできる状態になります。
そこで、もし、改ざんがあり、それにより租税回避がなされていた場合は、(それが税務当局により確認されたときは)仮想隠蔽があったとされ、重加算税の対象になります。
それともう1つ・・税務調査などの場面において、税務署側が「このUSBにデータを保存させてください」と要求されたら、それに応じなければならない・・ということが盛り込まれました。
これはチョット注意が必要です。
紙ベースの資料で調査を受ける場合、調査官がその資料の1つ1つを目で追いかけて確認するので、相当の時間がかかります。一方で時間がかかる割には、全体を把握することはナカナカ容易ではありません。
しかし、電子データで資料を提出してしまうと、税務署側では様々な検索を行い、瞬時に問題となる取引を抽出することが出来ます。
つまり、紙では指摘されなかった事項が、電子データだと容易に指摘される可能性があります。
これは納税者側にとっては・・・「うーん」躊躇してしまうことだと思います。
だから、「応じたくないな」と思われる会社様が多くあると思います。
さてこのような場合はどうするか・・それは、ちょっと面倒になるかもしれませんが「ステップ2」~「ステップ5」の事項について、これまでどおりの制約を受けることで対応できます。(電子データを渡さなくてもよくなります)
「えっ・・折角面倒な制約がなくなるのに何故?」と思われるかもしれません。
だけど、成約を受けるのは「ステップ2」以降で「ステップ1」の事前承認は不要なのです。
それだけでも、随分と楽になります。
ですから、税務調査の際に電子データーを渡してもよいと思うか思わないか・・これにより「ステップ2」~「ステップ5」までについて従来の面倒な制約を受けるか否かを判断して制度利用を検討することになるのではないかと考えます。
電磁的保存を検討する場合には是非このことを検討下さい。
(文責:代表社員税理士 小竹 勝)