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朝日税理士法人のブログを掲載します。

◆ 賃上げ促進税制の改正は大盤振る舞い!?~その功罪~ ◆

2022年2月14日 BLOG

■賃上げ促進税制とは

中小企業(細かい条件はありますが資本金が1億円以下の法人を指します)において従業員の給与を増加させると増加分の一部が法人税から控除されます。

 

従業員の賃上げは行わずに従来通りそのままでも新規の雇用、つまり新入社員を雇い入れたことによって従業員全体で給与が増えていれば要件を満たします。

 

逆に言えば継続従業員の賃上げを図っても定年退職者が多く、給与の増加がみられなければ要件は満たさず適用はできません。

 

■改正内容

今回の改正との比較、具体的な控除額は下記のようになります。

 

<今回の改正>

①前年度と比べて1.5%給与が増加していたら

給与増加分の15%を法人税から控除

 

②前年度と比べて2.5%給与が増加していたら

給与増加分の30%を法人税から控除(改正前より優遇)

 

③教育訓練費も前年度比10%増加していたら

①または②に加え増加分の10%を法人税額から控除(改正前より優遇)

 

改正により

15%、25%、30%、40%の4段階の控除率となります。

 

 

<改正前(現行制度)>

①前年度と比べて1.5%給与が増加していたら

給与増加分の15%を法人税から控除

 

②加えてその増加割合が2.5%で

かつ

教育訓練費も前年度比10%増加していたら

増加分の25%を法人税から控除

 

<限度>

法人税額の20%が限度

 

<適用開始>

R4年4月1日開始事業年度から適用

 

 

■改正までの流れ

税制改正大綱発表は2021年12月10日でした。

岸田内閣発足当初からの経済対策として賃上げを掲げており税制面から後押しするものとして、税制改正の議論は基本給の引き上げを要件とすることや税優遇の対象とならない赤字企業については、賃上げを要件に補助金の支給が検討されていました。

しかしふたを開けてみればこれまでの賃上げ促進税制の目的である新型コロナで悪化した雇用の改善を促そうと新規採用の従業員やボーナスを増やすと法人税を控除できる仕組みに賃上げの大きさに応じて控除率を段階的に引き上げる仕組みに変わっただけでした。

 

 

■大盤振る舞いとなる理由

今回の改正は令和4年4月以降に開始する事業年度から適用されます。

 

来年の今頃、令和5年3月決算を迎えるコロナ禍継続によりリモートワークなど自宅の通信環境、パソコンやその周辺機器や通信サービス提供の需要が増加し好調な業績を見せている会社の社長と顧問税理士の会話からその内容を見ていきましょう。

 

 

社長A 「(12月の試算表を見て)3月の決算着地見込みを教えてくれないか」

税理士B「残り3ケ月の受注も明らかになって、予想通り大幅な利益が見込めますよ」

社長A 「それは嬉しいが、納税が心配だよ。好調な業績が続くとも限らんしな

     何か節税対策を講じる必要があるな」

 

 

税理士B「やはり前々からお話させて頂いた決算賞与の期末3月での未払計上ですかね。

     業績上がっておりますが、売掛金の回収期間は変わりませんから、

     賞与を期中に支給するほど資金繰りはまだまだ余裕がないですからね。

     もちろん未払計上も賃上げ促進税制は利用できます。

     今回の改正で、節税はもちろん、キャッシュアウトにおける効果が非常に高いですよ。

社長A 「どういうことだ?」

税理士B「決算賞与として例えば1,000万円支給すると、決算後に1,000万円と

     その賞与額にたいして約30%の社会保険料がかかり、会社はその半分を負担しますよね。

社長A 「そうだな。賞与1,000万円と社会保険料150万円で計1,150万円か、

     これが決算後に会社から出ていくお金か」

税理士B「そうです。社会保険料は今回の決算で費用として未払計上できませんが、

     会社の利益、つまり課税所得が1,000万円減り、御社の今の業績ですと

     法人税や法人税市民税事業税などで約37%である370万円の税金負担が

     なくなります。

     さらに今回の改正要件(前年度比2.5%給与増、前年度比10%教育訓練費増)

     を満たしておりますので増加分の40%、法人税が400万円控除されます」

 

社長A 「控除は法人税の20%が限度だったよな」

税理士B「はい。給与の増加より、利益が大きいのでまだまだ限度額の範囲内です」

社長A 「安心したよ」

 

税理士B「決算賞与で1,150万円ほどの支出はでますが、納めるはずだった770万円が減税になり

     実質的なキャッシュアウトは差引380万円です。翌期計上の社会保険料も利益と相殺して

     税負担は減少します。追加の賞与分のキャッシュアウトで考えると約70%の減税と考えてよいです」

社長A 「それはすごいな、決算賞与が今期の費用となるためには要件があるんだよな」

税理士B「大まかには決算期末までの通知、決算後1か月以内の支給、未払計上の3つです」

社長A 「よし。従業員のモチベーションアップにも繋がるし、検討しよう」

 

 

 

■功と罪

 

今回の事例では、決算賞与の支給により、税額控除の恩恵を受けております。

給与は一端上げると下げづらく、会社も先行き不透明なことから、自らベースアップとなる賃上げの一歩を踏み出せず決算賞与の支給で恩恵を受ける方向に傾いてしまうとも考えられます。

 

岸田内閣は政策として「成長と分配の好循環」を掲げておりますがはたして賃上げ税制には賃上げを促す効果は期待できるのでしょうか。

 

また法人税を納付する企業について適用可能な税制であり中小企業の6~7割は赤字と言われているなか、中小企業間でも今後さらに格差が生じるのではないでしょうか。

(文責:松岡 陽介)

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