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朝日税理士法人のブログを掲載します。

◆ 相続税路線価の歴史 ◆

2021年7月12日 BLOG

Q:相続税路線価が6年ぶりに下がったよ

A:コロナの影響だね、でも以前は下がらなかったときもあるみたいだよ

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【コロナ禍の影響で下落】
毎年7月1日に発表される相続税路線価・・・
今年はコロナの影響で、調査地点の平均値ベースが、6年ぶりに前年割れしました。その下落幅が最も大きかったのは大阪市中央区の心斎橋筋の26.4%、次いで岐阜県高山市の上三之町下三之町線通りの12.7%、奈良市の大宮通りにおいても12.5%下落し、東京では、台東区の雷門通りにて11.9%下落しました。下落が目立ったのは、これらを含む観光地や外国人観光客が訪れる商業地でコロナの影響にて外国人を中心に観光客が減り、その影響で飲食店の閉店が増えたことが原因だと思われます。

 

【当初は、賃料ベースで評価する予定であった】
この相続税路線価は、皆様ご承知のとおり、相続税や贈与税の計算において土地の評価に用いられるモノです。ですから、その歴史は相続税とともにあると思いきや、調べてみると相続税よりも歴史は浅いモノのでした。相続税は1905年(明治38年)に創設されました。当時は日露戦争真っただ中で、その戦費調達策の財源確保が創設の目的でした。その際「相続税の対象となる土地については、どのように評価するのか」が検討され、当初案では「賃貸価格の20倍」にて評価するとなっておりました。しかし、実際に計算してみると、土地の実勢価格に比して、当該20倍の額はかなり高いということで、時価で評価しようということになりました。このように時価を旨とした評価をする事になりましたが、路線価という制度は相続税創設時にはありませんでした。

 

【固定資産税評価を参考にしたいが・・】
ただ、何等かの基準は必要であるということは模索されていました。そこで、目を付けたのが、固定資産税を計算する際に用いられる、固定資産税評価額でした。今でこそ、固定資産税評価額は、全国において時価の70%を目安に評価されておりますが、当時は、地方税である固定資産税における評価額は、それぞれの市町村財政状況の格差に影響され、各市町村において基準が統一されておらず、国税である相続税においては利用し難いモノでした。

 

【道路に値段を付けよう】
そこで、国税として全国の路線(道路に)評価基準を持たせる路線価が必要ということになり、相続税創設から40年以上経過した1950年(昭和25年)に相続税路線価が導入されました。

 

【今でこそ80%だが】
現在の相続税路線価は、公示価格の80%程度に設定されています。しかし、この80%という率は最初からそうだったのではありません。近年のその変遷を見ていくと・昭和60年頃は公示価格の30%~50%程度に設定されていました。・その後、平成3年には公示価格×70%程度に上がり、翌平成4年に公示価格の
80%(現在と同じ設定)になりました。

 

【50%から70%、80%に引き上げた結果】
この昭和60年頃~平成4年は日本の経済に大きな激動があった時期です。それは皆さんご承知のバブル経済とその崩壊です。当時、地価は大きく右肩上がりでした。その動きに連動するように、相続税路線価は、公示価格の50%、70%、80%と上がっていきました。「地価がどんどん上がるので、その料率を上げても大丈夫であろう」というカンジであったことと、「どんどん上がっている土地について重税感を持たせよう」という政策意向がその料率アップにあったと解されます。しかし、バブルはあっけなく崩壊し、それと同時に地価はどんどん下がっていきました。あまりの下がり方に相続税路線価の下げ幅が付いて行かないことに加え、元々50%程度であったモノを80%に、設定してしまったこともあいまって、大都市圏を中心に、相続税路線価が地価よりも高くなってしまう逆転現象が多発しました。

 

【今回はキチンと機能】
そのような変遷や歴史を持つ相続税路線価は、今回のコロナ禍における地価の下落について敏感に反応し前年に比して(ある意味)キチンと下がっております。(バブル崩壊時の逆転現象は今回生じていません)これは相続税や贈与税の計算において、相続税路線価の制度はキチンと機能していることを示しているものと解します。

今回の下落は経済の悪化によるモノであり、日本経済の面において色々議論や懸念はあろうかと思いますが、税計算の面においては、今後も、適正かつ税の公平性を保つため相続税路線価が適正運用されることを望みたいと考えております。


(文責:代表社員税理士 小竹 勝)

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